約 1,077,077 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/285.html
わたしは、自分の部屋で今までの事を振り返っていた わたし達は、フーケを捕まえ無事に破壊の杖を取り戻した 破壊の杖は、どうやらプロシュートの世界から来た物らしい その事から解った事といえば、プロシュートが召喚された以前にも 誰かが異世界から召喚されてしまった事ぐらいで、むこうの世界に帰る 手がかりにはならなかった しかし、何故わたしが異世界からプロシュートを召喚してしまったのだろう? わたしが真面目に考えてる隣では 「ダーリン、今日も素敵よ」 キュルケがプロシュートに迫っていた わたしはキュルケに対し、怒りよりも心配が先に出てしまう 「キュルケ・・・その、彼が怖くないの?」 キュルケをプロシュートから引き離し、耳打ちする 「確かに彼、敵には容赦ないわね、でも『そこにシビれる憧れるぅ』ってやつよ」 何それ? 「彼、敵にはそんなんだけど仲間想いの熱い男に違いないわ、コレ女の勘ね」 なに夢見てんのよ、彼の怖さは・・・わたしは夢を思い出していた 仲間が殺された時の彼の怒りを 仲間の強さを疑わない彼の信頼を 仲間の成長を願い叱る彼の姿を 殺しのイメージが強いが、別に彼は殺人鬼でも快楽殺人者でもない 人を殺す事が出来る『覚悟』を持った人間なんだ わたしは彼のそんな所にばかり気をとられ、今まで気が付かなかった それを、よりにもよってキュルケに指摘されるなんて 「ちょっとルイズ聞いてる?」 いけない、また考え込んでしまった 「聞いてるわ」 「あなた、彼を召喚して悩んでる様だけど、結構似たもの同士だと思うのよね」 「どっ、どこがっ?」 わたしと彼、一体どこが似ているというのかしら? 「自分の理想の姿を貫こうとする所ね。そこん所は私、あなたを認めているのよ」 自分でも顔が熱くなるのが判ってしまった 「今日の所はこれ位にしておいてあげる、じゃあねー」 キュルケが部屋から出て行った・・・まったく、言ってくれるわ・・・ でも・・・わたしの心には、もう迷いが無くなった この使い魔と、これから上手くやっていける わたしの心に爽やかな風が吹き込んだ 偉大なる使い魔 完
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2171.html
…朝目覚めて最初に目にするもの、それは枕、布団、ベッドの天蓋部屋の壁だったはずだ。 しかし最近はそれに一つ余計なモノが追加された、それは男子生徒が欲して止まないツェルプストーの寝顔だった。 「はあああああ~……」 「朝からため息なんてついてたら、幸せが逃げちゃうわよ」 ベッドから下りて服を着替え始めた私に、ネグリジェ姿のキュルケがしなだれかかる。 私はひょいと横に移動してそれを避けると、ハーミット・パープルでぐるぐる巻きにして廊下に放り出した。 「ああんもう、乱暴なんだから」 と言ってこちらを見るキュルケの瞳はどこか楽しそうに、そして愉しそうに潤んでいる。 私は開いたままの扉に手を伸ばし、はぁ~~~と長い長いため息をつきながら扉を閉じた。 * 着替えを終えたルイズが寮塔の階段を下りていく、塔の出口に差し掛かったところで、同級生の一人がこちらを見て驚いた顔をしていた。 ルイズの姿を見て、逃げるように本塔へと向かっていく生徒はそれだけではない、同級生の女子生徒のほとんどが、ルイズを見て逃げ出していく。 「まあ、ヴァリエールよ!孕まされるわ!」 誰かのそんな呟きが聞こえてきたので、ルイズはムキになって言い返した。 「誰が孕ますってのよ誰がぁ!」 顔を怒りに赤く染め、肩で息をするルイズの姿は、ある人は怒りに燃えていると判断し、ある者はキュルケに次ぐ獲物を探す獣の目だと評した。 「フーッ、フーッ!もう!なんで私ばっかりこんな目に遭うのよー!」 そんな叫びが朝の魔法学院に轟いた頃、気だるそうに起きてきたキュルケがタバサと挨拶を交わしていた。 「はぁい、タバサ、おはよ」 「……」 タバサと呼ばれた少女は、頷くだけであったが、それで十分な意思疎通が叶っていた。 キュルケはタバサの肩に軽くタッチすると二人並んで本塔の食堂へと向かっていった。 * 「あらルイズったら今日も特等席じゃない」 「………」 ルイズは不機嫌そうな表情を誤魔化すことなくキュルケを見た。 キュルケはそれに動じず、ルイズの隣の席に座ると、給仕に「料理をここに」と告げた。 朝食時、キュルケに特等席と揶揄されるルイズの席は、特に決まった場所ではない、周囲に誰も座らないから特等席と言われるだけだ。 キュルケにマッサージ(とルイズは言い張っている)をしたあの日から、キュルケはルイズにつきまとい、ついにはボーイフレンドを全員振ってしまった。 そのせいでルイズはキュルケを手籠めにしたとか、お姉様とかヘタレ責めとか言われるようになってしまった。 何度それは誤解だ、事故だと弁解しても、特定の男になびかないキュルケを落としたという事実はことのほか強い印象を植え付けたらしく、最近では放課後に人気のない食堂に呼び出され女子生徒から告白されそうにもなった。 ふとルイズが顔を上げると、向かい側の席に青い髪の少女が座った。 確かキュルケの友達で、名はタバサ。火のトライアングルであるキュルケとは対照的な、水と風のトライアングル、学院生徒の中でもかなり実力がある…らしい。 「…教えて」 「え?」 タバサは普段無口で、本ばかりを読んでいる。 喋る所など見たことのないルイズは、目の前の少女が珍しく口を開いた事実に驚いて、間抜けな声を上げてしまった。 「キュルケに…何をしたの?」 「えーと…」 純粋な疑問だった。ツェルプストー家とヴァリエール家は国境を挟んで隣同士、おかげで戦争が起こると両家はかならず激突している。 何百年にもわたる因縁を持った二家が仲良くなることなど、とても考えられないかったし、問題になりそうなキュルケの男遊びを、どんな形であれ止めてくれたことに感謝していた。 しかしタバサは普段から口数が少なく、口べたである。 彼女の身体に染みついた口調は、事務的な受け答えか、戦いで鍛えられた威圧的なしゃべり方のどちらかに限られていた。 「……何をしたの?」 「あのー、事故というか、その…」 威圧的なタバサの言葉と、困り顔のルイズを見た周囲は 「痴話喧嘩だ」とか「ルイズとタバサが女を取り合ってる」 などとささやき始めた。 キュルケは嬉しそうに、胸の前で腕を交差させて自分の身体を抱きしめ、うふふと笑みを浮かべる。 そろそろ二つ名が『ゼロ』から『工口』に突入しそうな勢いであった。 * 魔法学院の夜は早い、夜更かしする者はそれなりに周囲に気を配って夜更かしをするので、魔法学院の夜は比較的早く訪れる。 この日は、学院の外に一人の少女が出歩いていた。 「えーい!」 まるで空を飛ぶような跳躍を見せ、魔法学院の外壁を飛び越えたルイズは、ハーミット・パープルを壁面にめり込ませて勢いを殺し、ヴェストリの広場に着地した。 「ふーっ、凄いわ、凄いわ」 ルイズが両拳を握りしめて、自分の身体の変化を喜ぶと、背中に背負われたデルフリンガーから話しかけられた。 『どうだい、それが『使い手』の力よ。でもあんまり使いすぎるなよ、その分早く疲れちまう』 「うん。解ってるわよ」 ルイズは短く答えると、デルフリンガーに伸ばしていたハーミット・パープルを消した。 すると、羽のように軽かったからだが重く感じられ、足にも疲労感が襲いかかってきたが、高揚感がそれを打ち消してくれた。 ルイズは早馬と同じかそれ以上の早さで外周を駆け抜け、外壁を飛び越えたのだ。 ルイズの夢は『自力で空を飛ぶ』ことだった。それはメイジの持つ夢ではなく平民が抱く夢だと言われてきた。 デルフリンガーにハーミット・パープルを巻き付けることで得られる不可思議な力で、塀を跳び越えただけなのだが、形は違えども『自力で空を飛ぶ』メイジに一歩近づけた気がした。 「でも、やっぱり普通の魔法も使いたいな」 『そりゃー贅沢ってもんだぜ、何でもかんでもすぐに使えると思ったら大間違いさ』 「なによ、私だって……私だって頑張ってるんだから」 頬を膨らませてデルフに言い返すと、ルイズは懐から杖を取り出した。 そして左手からハーミット・パープルを出現させてデルフリンガーの柄に巻き付ける。 「もう一回、今日は魔法の練習もするわよ」 『あいよー』 ルイズの左手に浮かんだルーンが輝くと、ルイズは地面を蹴って、塀の上に飛び乗った。 「はあ…」 『どうした?』 「ううん、なんでもない」 塀の上から見る、月明かりの草原は、寮塔の窓から見た景色と違いはない。 マンティコアの背に乗って、もっと高いところから地面を見下ろしたこともある、けれども自分で空を飛び、草原を見下ろすことなど今までに一度も無かった。 満面の笑みを浮かべ、ルイズは右手に持った杖を高く掲げる。 「なんでもないわ!じゃあ行くわよ。”イル・フル・デラ・ソル・ウインデ”!」 高揚感と共にフライの呪文を詠唱し、杖を持つ手に力を込めたルイズの期待は、真後ろからの爆発音で裏切られた。 どぉぉん、という音が鳴り響いたのは魔法学院本塔の中央部分であった、そのあたりには宝物庫があり、特に強固に作られている。 「……やっちゃった」 『……やっちまったな』 外壁の上で呆然としていたルイズは、月明かりに照らされた本塔の壁を見て仰天した、影ができているのだ、本塔の壁に模様などありはしない。 つまりそれは、亀裂のような形をした影ではなく、亀裂そのものであった。 「どっ、どうしよう?」 『どうしようって…言い逃れできねーだろ、こんな派手にやっちゃ』 「でもっ、でも……(……)……え?」 不意に、ルイズの脳裏に言葉が浮かんだ。それは根本的な解決にはならないが、今のルイズに洗濯できる唯一の行動でもあった。 『嬢ちゃん?』 急に黙ったルイズを心配してか、デルフリンガーが声をかける。 「デルフ、いい案があるわ。ヴァリエール家に伝わる伝統的な方法…それは!」 『それは?』 「逃げるのよーーーーーーーーーっ!」 るいずは にげだした! * 「って何であたしが逃げるなんて真似しなきゃいけないのよ!貴族は背中を見せちゃいけないのよ!」 数分前まで、学院から離れようと一目散に草原を駆け抜ていたルイズは、自分の行いに後悔しつつ魔法学院へと戻っていった。 早馬よりも速く逃げたルイズは、これまた早馬よりも速く戻ってきたのだ。 「ああもうどうしよう弁償かなお母様に怒られるかな…」 走りながら、絶望的な未来を想像するという、器用な真似をしているルイズは、魔法学院の壁を乗り越えた巨大なゴーレムの姿に気が付かなかった。 『前!嬢ちゃん!前!前!』 「え? うきゃあああああー!?」 ずしん!という振動が足に伝わる。 ルイズの目前に、高さ30メイルはあろうかという巨大ゴーレムの足が踏み降ろされた。 急には止まれないのか、そのまま足に体当たりしそうなルイズは、あられもない叫び声を上げながら、その場でジャンプした。 「きゃあ!きゃああ!」 『ちゃんと前見ろって!』 ゴーレムの腰あたりに足をつけたルイズは、独りでに動き出したハーミット・パープルによってゴーレムの肩にまで持ち上げられてしった。 ルイズは咄嗟に、この場から距離を取るつもりでゴーレムの肩を蹴り、更に高く跳躍した。 右手から伸びるハーミット・パープルがデルフリンガーを抜き、ゴーレムの肩を豪快に切り裂いた、それによってゴーレムの片腕がズドンと音を立てて地面に落ちる。 「ひゃあああああああああああぁぁぁぁ!!?」 しかし当の本人は何が起こったのか解らない、地面に落ちると思いこんで、叫び声を上げたまま何かにぶら下がっていた。 「きゃあああああ…あぁぁぁ…あれ?」 『嬢ちゃん、上、上』 「上?」 ルイズの身体は宙に浮いていた、もしかして『レビテーション』か『フライ』が咄嗟に発動したのかも!と思ったが、魔法を使った覚えはないのでその可能性は低い。 デルフリンガーの言うとおり上を見ると、そこには風竜に乗ったタバサとキュルケがいた。 「ルイズったらやるじゃない!見てたわよ、今の一撃」 「きゅ、きゅるけ?どうして?」 「ルイズがまた爆発を起こしたと思って外を見たら、ゴーレムが宝物庫を殴りつけてたのが見えたの。驚いて外に出たら、丁度タバサも出てくるところだったから、シルフィードに乗せて貰ったの」 「そうなの…」 ルイズが宙に浮いているのは、キュルケのレビテーションのおかげらしく、ルイズはそのままゆっくりとシルフィードの背に引き上げられていった。 「…土くれのフーケ」 タバサの呟きに、ルイズが驚く。 「あれが?今のが土くれのフーケ?」 「たぶん」 三人が空からゴーレムを見ると、ゴーレムは既に土くれに戻っていた。 宝物庫を見ると、そこにはルイズが開けた穴ではなく、土くれのフーケによって拡張された穴が空いていた。 「魔法学院から堂々と盗むなんて、大胆不敵ね。それともトリステインがだらしないのかしら」 「宝物庫は鋼鉄の壁に、スクウェアの固定化が施されてる。魔法だけで穴を開けたならフーケはスクウェアかもしれない」 「………そ、そうね。フーケはスクウェアかもしれないわね!大胆不敵な希代の大盗賊よ!」 ルイズは穴を開けたのが自分だと気付かれぬためにも、必死でタバサの言葉を肯定した。 しばらくしてから教師陣が様子を見に来ると、ルイズ達は目撃者として事情を聞かれ、翌朝早くオールド・オスマンの元に集められることになった。 * 昨晩、秘宝の『破壊の杖』が、土くれのフーケによって盗まれた、魔法学院は針の巣を突っついたような大騒ぎになり、事態の把握に努めようとした。 だが大なゴーレムが壁を破壊するという、大胆極まりない犯行のため、皆壁に空いた穴を見てあんぐりと口を開けていた。 宝物庫の壁には『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』と刻まれており、事態の把握はいつの間にか責任のなすりつけあいになっていた。 当直の教師であるミセス・シュヴルーズが門の詰め所におらず、自室で眠っていたせいだと糾弾された。 しかし、オールド・オスマンが『まともに当直をした教師が何人いるか』と問いただしたところ、皆恥ずかしそうに黙ってしまった。 結局の所皆、さぼりに身に覚えがあるらしい。 「それで目撃したというのは誰かね」 「この三名です」 オールド・オスマンが呟くと、コルベールがキュルケ、ルイズ、タバサを指さす。 学院長室の壁際に立たされた三人に視線が集中した。 「ふむ、君たちか。詳しく説明したまえ」 ルイズが進み出て、緊張した面持ちで答える。 「えっと…夜に魔法の練習をしていたんです。疲れたのでそろそろ終わりにしようと思って、学院に戻ろうとしたところで大きなゴーレムを目撃しました。ゴーレムは魔法学院の壁をまたいで出ようとするところで……危うく踏みつぶされるところでした」 「あら、30メイルはありそうなゴーレムの肩を切り裂いてたじゃない」 「ぐ、偶然よ」 キュルケがルイズを褒めようとするが、それは困る、正直なとろ偶然に過ぎないからだ。 「それで、盗み出した瞬間は目撃できなかったんですけど、その時は既に魔法学院の本塔に大きな穴が空いていました。キュルケはゴーレムの肩に、黒いローブを着たメイジを見たそうなんですけど」 そこまで言ってルイズはキュルケを見た、キュルケはウインクをすると一歩前に出て、自分の見たことを話した。 タバサからも、キュルケとほぼ同じ説明がなされると、説明を静かに聞いていた教師達はにわかにざわめきだした。 「ふーむ。後を遣おうにも、手がかりは無しか……ところでコルベールくん、ミス・ロングビルはどうしたのかね」 「それがその……、朝から姿が見えませんで」 「この非常時に、どこに行ったのじゃ」 「どこなんでしょう?」 と、噂をしていると、学院長室の扉がノックされ、ミス・ロングビルが入室した。 「ミス・ロングビル! この大変な時にどこに行っていたのですか!」 多少興奮した調子のコルベールに、申し訳ありませんと呟くと、こほんと咳をしてオスマンに向き直った。 「申し訳ありません。今朝方の騒ぎで土くれのフーケが宝物を盗んだと聞きまして、何か手がかりはないかと探しておりましたの」 「調査か、うむ。仕事が早いのぅ。ミス・ロングビル」 「それで私は、近隣の農民に聞き込んでみたのですが、朝早く、近くの森に黒いローブを着た男が入っていくのを目撃したというのです、おそらくそれがフーケではないかと思いまして…」 「な、なんですと!」 コルベールが驚くと、周囲の教師達も顔を見合わせて驚いたように何かを呟いていた。 キュルケも記憶と照らし合わせたが、なにぶん暗闇なので情報量が少ない。 「黒づくめのローブ…確かに特徴は似てるけど、タバサ、どう思う?」 「ゴーレムの肩に乗っていたのは確かにローブを着ていた。けど…」 まだ何か言いたげなタバサの台詞を遮って、キュルケが拳を握りしめた。 「…ルイズの玉の肌に傷をつけようとした罰よ…焼き尽くしてやるわ」 ギョッとした顔で教師達がルイズを見る、ルイズは恥ずかしさと緊張で萎縮し、肩を縮こまらせた。 まさかこんな所でキュルケを殴り飛ばすわけにもいかないので、無視することにしたが、誤解はますます広がるばかりであった。 だがオスマン氏は一人、目を鋭くしてミス・ロングビルに尋ねた。 「その場所を調査するか。これは魔法学院全体の責任じゃ。我々の手で事件を解決せねばならん。ミス・ロングビル、その森はどこかね?」 「はい。火の塔から西に徒歩で半日。馬で四時間の場所にあるといったところでしょうか。森の奥には使われていない廃屋と、獣道がいくつかあるそうですが…」 「しかし、我々で行くのは危険です。すぐに王室に報告しましょう、王室の衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」 「ならん!王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうじゃろう、その上身にかかる火の粉も払えんで何が貴族じゃ、これは魔法学院の問題。我らで解決するのが当然じゃ」 コルベールの言葉を聞いたオスマンが、怒鳴り声でその意見を払いのけると、ミス・ロングビルはその時確かに微笑んだ。 ルイズはその微笑みを見て、何かが変だという気がした、そしてもう一つ…今まで思考の隅に追いやっていた、ある考えが頭に浮かんできた。 オスマンが咳払いをし、有志を募るため皆の顔を見渡す。 「では捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ」 しかし、誰も杖を掲げないどころか、教師達は困ったように顔を見合わしている。 そしてルイズも違う意味で困っていた。 「フーケを捕まえて、名をあげようと思う貴族はおらんのか!」 オールド・オスマンの声が響く、それまで俯いていたルイズが杖を抜くと、すっと顔の前に掲げた。 「ミス・ヴァリエール!あなたは生徒ではありませんか。ここ教師に任せ…」 シュヴルーズがルイズを見て驚きの声を上げたが、キュルケがそれを制した。 「お言葉ですがミセス・シュヴルーズ。勇敢なる教師の方々は誰も杖を掲げておりませんわ」 そう言って自身も杖を掲げる。 「ルイズが行くなら、私も行くわよ」 そして更にもう一人、タバサ一言呟いて杖を掲げた。 「心配」 三人が杖を掲げたのを見て、コルベールが驚き声を上げる。 「君たちは生徒じゃないか! ……オールド・オスマン、ここは私が…」 「ほっほっほ!そうか、そうか。では三人に頼むとしようか」 生徒だけでは危険だと主張するはずだったコルベールは、オールド・オスマンの発言に心底驚いていた。 「三名ともよく聞いてくれたまえ。魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」 三人は、真顔になって姿勢を正し、「杖にかけて!」と唱和した。 キュルケはルイズのために。 タバサはキュルケのために。 そしてルイズは、『フーケに爆発の瞬間を見られているかもしれない』と思い、フーケの口を封じるため杖を掲げた。 * さて、三人と、案内役のミス・ロングビルは、準備された馬車に乗って森の中を駆けていた。 馬車は幌の取り払われた、荷車のような馬車で、申し訳程度の座席が設置されている。 襲われた時すぐ飛び出せるようにと、わざわざこの馬車を選んで貰ったのだ。 ルイズは念のためにデルフリンガーを背負ってきている。 案内役のミス・ロングビルが御者を買って出ると、キュルケがそれを不思議に思ったらしく、手綱を引くロングビルに話しかけた。 「ミス・ロングビル。手綱なんて、付き人にやらせればいいじゃないですか」 ロングビルは、にっこりと笑って答える。 「いいのです。わたくしは、貴族の名をなくした者ですから」 その答えに驚いたのか、キュルケは御者席に身を傾け、話を続けた。 「でも、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」 「オスマン氏は、貴族や平民だということに、あまりこだわらないお方ですから」 更にずい、と身を乗り出し、顔をロングビルに近づけたキュルケは、好奇心を隠さない口調で呟いた。 「差しつかえなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」 ミス・ロングビルは優しい微笑みを浮かべた、遠回しな拒絶の表れであったが、ルイズはその様子に別のものを感じていた。 「キュルケ、やめなさいよ。そんなこと聞くものじゃないわ」 「もう。いいじゃないの。でもルイズに言われたらしょうがないわね」 「ええと…昔のことは根掘り葉掘り聞くものじゃないわ。誰だって言いたくないことぐらい、あるわよ」 ルイズは、以前覗き見したタバサの過去を思い出していた。 それに比べて自分は、宝物庫の壁を破壊したのが自分だとバレたくないがために、フーケの捜索隊に志願している。 自分の矮小さが情けなくなり、ため息をついた。 しかし一つ、気になることがある。 なぜ捜索隊が組まれることになった時、ロングビルが笑ったのか、それがどうしても頭に引っかかる。 ルイズがハーミット・パープルをデルフリンガーに這わすと、デルフリンガーに思考が流れ、デルフリンガーの思考はルイズに流れる、いわゆる『念話』である。 『ねえ…ロングビルって、どう思う?』 『怪しい、怪しいぜ。そもそも朝方偶然フーケを発見したってのが怪しいぜ。あと俺の見立てじゃ、男は女に変身できねえ。女は簡単に男に偽装できる』 『!』 「……まさか」 ルイズは小声で呟くと、頭の中で響いた声に従うように、ハーミット・パープルをロングビルの頭に這わせた。 『まったく土くれのフーケともあろうものが、魔法学院の秘書だなんて、我ながら笑ってしまうねえ』 「おブッ!」 尋常でない咳き込み方をしたルイズ。 それを見て、向かい側に座っていたキュルケが、ルイズの肩を抱きしめた。 「ルイズッ!ちょっと、気持ちが悪くなったの?……まさか、昨日、身体を打ち付けていたんじゃ…だとしたら大変よ!」 「だ、大丈夫、ごほっ、そんなんじゃないから、ちょっと咳き込んだだけ」 「でも…ルイズ、貴方に何かあったら私…私…」 とても以前のキュルケからは考えられない、キュルケはうっすらと目に涙すら浮かべている。 そんなに自分を心配してくれるのかー、あー流されちゃってもいいかなーと考えそうになる頭を振って、キュルケを手を振りほどいた。 「大丈夫よ、大丈夫。緊張してるのよ、わたし」 「本当に?」 「ええ」 ルイズはキュルケを席に着かせると、再度ハーミット・パープルをロングビルの頭に這わせた。 『まったく度胸のない嬢ちゃんだねえ。これじゃ『破壊の杖』の使い方も知らないんじゃ…まあその時は別の生徒を連れ込んで、使い方を聞けばいいさ』 『教師でもいいかねえ、あの頼りなさそうなコルベールとか…でも危険な気もするんだよね。とにかく『破壊の杖』を売る前に使い方ぐらいは知っておかないと……』 ルイズは別の意味で驚いた。 もし、頭に流れ込んでくるロングビルの思考が本物なら、彼女こそが土くれのフーケであり、マジックアイテム『破壊の杖』の使い方を知るためだけに、自分たちを誘い込み、そして殺そうとしているのだ。 『ああ、それにしても……何で壁に穴なんて開いてたんだろうね、私を誘い出す罠?いや、そんなはずは無いさ、魔法学院の教師は無能揃いだし…』 今度は逆に、ほっと胸をなで下ろした。 自分があの穴を開けたのだとバレていない、しかし命の危険が迫っていることに違いはなかった。 ルイズは何とか情報を集めるべく、更にロングビルの思考を読み続けた。 『ティファニア…あんたが私のしていることを知ったら、軽蔑するんだろうね。人間の私が人を殺して金を奪って…ティファニアはハーフエルフなのに誰かが傷つくのを嫌って……』 『孤児院には金が必要なんだ、貴族の粛正で家を失った元貴族や、口減らしで捨てられた子供を育てるには金が必要なんだ』 『だから私は横暴な貴族どもから金を奪ってやるんだ。魔法学院の教師どもはどいつもこいつも屑ばかり、宝物なんて本当に宝の持ち腐れさ!』 「なによ。ルイズ、やっぱり調子悪いんじゃないの」 いつの間にか顔を青くしていたルイズの隣に、キュルケが座る。 「あ…大丈夫。大丈夫よ。平気だから」 かろうじて絞り出した言葉は、いつになく弱々しかった。 ルイズは迷っていた、見たくもない現実を知ってしまった、自分が家族を思うように、タバサが家族を思うように、フーケ…いや、マチルダ・オブ・サウスゴータも家族を思っている。 貴族としてやるべきことは決まっている、フーケを捕らえ、衛兵に引き渡せば良いのだ。 でも、それをしていいのか解らない、なぜ自分が迷っているのかすらわからない。 「どうすればいいの」 ルイズの呟きに、左手の甲に浮かんだルーンが反応した。 『…なるほど、その手があったか』 ルーンが明滅を繰り返した後、唐突にデルフリンガーの思考が流れ込んできた、まるで誰かと会話しているようだった。『デルフ、どうしたの?』 『ああ、ちょっと一芝居思いついたんだ』 『一芝居って、何よ、インテリジェンスソードのくせに』 『まあそう言うなって、嬢ちゃんには悪くない選択肢だぜ。まあ聞いてくれよ。…で嬢ちゃん、悪役になってくれねぇか?』 『は?』 * その後、結局の所四人は無事に『破壊の杖』を取り戻し、魔法学院に帰ってくることができた。 その上『破壊の杖』が使い捨てであるという事実をオマケにして戻ってきたが、オールド・オスマンにとって思い出の品であることに違いはないので、オスマンは満足したらしい。 フーケを倒すことはできなかったが、四人はトリステイン国家が認める勲章が授与されるよう、オールド・オスマンの推薦付きで申請が出されることになったが、一同はそれを辞退。 その代わり、報償を貰うことで話が付いた。 四人は英雄のような扱いを受け、今夜開かれるフリッグの舞踏会で主役になるであろうと言われたが、ルイズは披露を理由に出席を辞退。 キュルケもルイズを看病するという名目で、舞踏会を辞退した。 タバサは主役の一人であるが、ハシバミ草と格闘中のためダンスには誘われない。 ロングビルは、舞踏会が始まる前に何処かへ行ってしまった。 結局、主役不在のまま行われた舞踏会であったが、生徒達は思い思いに踊りを楽しみ、一夜の夢を味わったようだ。 * 「ふぅ」 魔法学院の大浴場で、ため息をついたのはミス・ロングビル。 彼女は昼間の出来事を思い返して、何度目か解らぬため息をついていた。 複数存在する隠れ家のうち、魔法学院に最も近い隠れ家に『破壊の杖』を隠し、生徒達を連れて行くところまで成功した。 しかし、馬車を降り、フーケの隠れ家を遠目で確認した後から記憶がない。 三人の生徒が隠れ家の中を確認している間に、自分は別行動を取り、ゴーレムを作り出して襲うつもりだった。 しかし、突然何者かに首を絞められ、あっけなく気を失ってしまったのだ。 ……そして目が覚めた時、ロングビルは馬車に寝かされていた。 傍らには、ガラクタになった『破壊の杖』が置かれていた。 魔法学院に到着するまでの間、自分が気絶している間に何が起こったのかを聞いた。 小屋の中に突入した三人は、あっけなく破壊の杖を発見。 そして小屋の外に出たところで、ローブ姿の男を発見し、ルイズが『破壊の杖』を向けたところ…ぽん!という音と共に何かが飛び出た。 後は大爆発、破壊の杖に相応しい破壊力だったようだが、それ以降ウンともスンとも言わない、よく見ると半分は詰まっていた中身が、綺麗になくなっており、『杖』は『筒』になっていた。 それから数時間フーケを捜索していると、倒れているロングビルを発見、捜索を切り上げて魔法学院に帰った… ということらしい。 「あー…いまいましいねえ」 報償としてかなりの大金を貰ったが、どこか釈然としない。 また宝物庫を漁る機会ができたと思えば、ラッキーかもしれないが、二度も三度も同じ手が通じるとは思えない。 「頃合いを見計らって、辞めようかねえ…」 魔法学院の本塔を偶然破壊できたことで、セクハラオスマンの鼻をあかせた分、ロングビルの気分は晴れていた。 そして、故郷に残してきた血の繋がらない妹…ティファニアへの仕送りも、恩賞でめどが立った。 「ほんと、忌々しいよ…」 ロングビルの顔は、少しだけ笑っていた。 「ミス・ロングビル?一人ですか?」 浴場の扉が開かれ、中に入ってきたのはルイズだった。 「ミス・ヴァリエール。もうお体の調子はよろしいんですか?」 ロングビルは、先ほどまで殺そうとしていた相手に対し、すぐに猫を被れる自分が恨めしいと思った。 「ええ、もう大丈夫です。それよりもミス・ロングビルに話したいことが…」 「え?」 「その、気絶している間。『ティファニア、ごめんなさい』って…」 「……それは、皆さん、聞いていたんですか」 「いえ、私がミス・ロングビルを見つけた時、そんな寝言を言っていたんです」 「私、他にも何か寝言を言っていませんでしたか?」 そう言いながらロングビルは、浴槽腰掛けたルイズに近寄った、今この浴場は二人きり、他の人は居ない…必要ならこの場でルイズを殺すつもりで近寄った。 「ええと、他には、その……」 昼間、ルイズはデルフリンガーの提示した作戦を実行した。 ロングビルの思考を読んだルイズは、破壊の杖の置き場所から、ロングビルの行動まですべて解っていた。 身を隠そうとしたロングビルを左手のハーミット・パープルで気絶させ、廃屋に侵入し破壊の杖を見つける。 そこにはフーケが使ったローブがあると解っていたので、ハーミット・パープルを使ってさりげなくそれを隠した。 外に出たと同時に、ハーミット・パープルを森の中に這わせて、ローブを揺らす。まるでそこに人がいるかのように… そこでルイズがいつものように魔法を失敗させ、爆発を起こす手はずだったが、なんとルイズには破壊の杖の使い方が解ってしまった。 デルフリンガーが言うには、それが『使い手』の力らしい、ハーミット・パープルの力なのかルーンの力なのか解らないが、面白そうなので破壊の杖を使ってみることにした。 想像を絶する爆発の後、フーケのローブが落ちてきた。 血はどこにも付着していないので、フーケは咄嗟に逃げたと判断して捜索し、頃合いを見亜計らってロングビルを発見する。 後はロングビルを連れ帰り、ティファニア、孤児院などの情報を元に、脅しをかけるつもりだった。 デルフリンガーの言った『悪役』とはこの事だったのだが…… ルイズは怖がっていた。 「それで。私…何か言ってませんでしたか?」 「そのー、えーと…あうー…」 ルイズに、脅迫などできるはずがなかった。 このままだと怪しまれて、ここで殺されてしまうかも知れない、そんなことを考え不安になっていたルイズの脳裏に、ある言葉が浮かんできた。 (………) 「あ!その、『愛していた、寂しい』…って言ってましたわ」 脳裏に浮かんだ言葉の通りに喋ると、ロングビルの態度は一変した。 「……そうですか、私、そんなことを…」 ロングビルの脳裏に、子供の頃から遊んでいた友達や、初恋の人、そして家族の姿が思い浮かぶ。 『なんてこった、あたしは寂しがってたのかい…ごめんねティファニア。私、ずっとあんたを裏切ってるわ。他人を傷つけちゃいけない、そんなことを言っておきながら、私は、私は…』 「ミス・ロングビル…」 そのばで涙を流し崩れ落ちたロングビルを、ルイズはそっと抱きしめた。 「あの、私にはよく分かりませんけど…あの…」 ルイズはこの後「元気になって下さい」とか「頑張ってください」と言うつもりだったが、ルイズが口を開くよりも早くルーンが輝き、ルイズの思考に何かが混ざった。 「あの… 涙なんて流したら美人が台無しよ」 「へ?」 口調が強くなったルイズを、ロングビルが呆れたような顔で見上げる。 「ロングビル…貴方の太もも!うなじ! もうグンパツじゃない!」 「あの、ミス・ヴァリエール?」 「ねえ、ロングビル。ヴァリエール家は悲しい時、代々伝わる方法で慰めるのが常なの………それは」 「それは?」 呆れていたロングビルの身体に、何かが絡みつく。 「!」 不可視の触手に驚いたロングビルは、そのまま体中をがんじがらめにされて湯船に放り込まれた。 「身体で解らせてあげるわーッ!」 「ちょ、やああああああーッ!? あっ」 * 翌日、妙にやつれたルイズが、キュルケを右手に、ロングビルを左手にして食事の席に座っていた。 ルイズの二つ名に『ゼロ』だけでなく『女殺し』が加えられた記念すべき日であった。 「もういやああああああ!」 尚、本人は納得してない。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1279.html
「ってな事があったんだよー、どうすればいいと思う?」 「うーん、謝るしかないんじゃあないですか?」 おれは昼食を取りながら授業中の事をどう誤魔化そうか考えていた。 あの後ルイズはオスマンに呼び出されたらしい。それはつまり相当ヤバイ事をしでかした、という事だ。 おれとしては今この学院を離れるのは惜しい。ここなら部下も集められるし、ルイズを通して国の動きもわかるからな。 だから謝ろうと思った。 方法としては砂人形で何とかなりそうではあるのだが、ワンパターンすぎるのが問題だ。 後の事を考えると他の方法も持っておいた方が良い。 だがあの怒りはちょっとやそっとでおさまりはしないだろう。 考えても分からない。 だから人に聞いてみた。具体的に言うとシエスタに。 「悪い事をしたのなら謝らなくちゃ駄目ですよ」 「うん」 「ちゃんと悪い事をしたという意識を持つんですよ」 「ああ」 「イギーさんはその辺を適当にしそうですけど、それじゃ駄目ですからね」 「うい~す」 誠意を持って謝る以外の方法を知らなさそうなので適当に返事してこの場を去る事にする。 「参考になったよ、ありがとー」 「どういたしまして、でもなんで私に相談したんですか?」 「え?いや、なんとなく」 謝りなれてそうだから、なんて口が裂けてもいえないよなー。 他にも色々聞いてみた。 「あんな見事な逃走しといて謝るのは難しいんじゃないの?そもそも私謝り方なんて知らないわよ」 そういやキュルケが謝っている所は見た事ないな。 「……知らない」 素っ気ねーなあ、でも話してくれるだけマシなのか?この前マリコルヌが完璧に無視されてたしな。 「プレゼントで機嫌をとれば良いのさ!薔薇とかはどうだい?」 それは金がもったいない。そもそも金を持ってない。 結局有効な手は見つからなかった。 仕方ないので直球で行く事にする。 部屋の前で深呼吸。 落ち着いて謝罪の言葉を思い浮かべる。部屋に入って『ゴメンナサイ』。 これで大丈夫だ。というかこれしかない。 ドアをノックする。 「誰ですか?」 「イギーです。謝りにきました」 おれはドアを開け、コルベールの部屋に入った。 「えーと、その、ゴメンナサイ」 「別にもう良いですよ。何とか修理もできそうですし」 何とか許してもらえた。 だがちょっと元気が無いみたいだ。心なしか頭にもいつものような輝きが無い。 机の上を見ると確かに教室に入ってきたときの物があった。 「すいませんでした。ところでそれ何?」 謝るのが目的だったがどこか見覚えのあるそれに興味がわいた。 「聞いてなかったのですか?」 そりゃまあ、寝てたし。 「これはですね、まずこうやって油を気化させて…」 コルベールは足でふいごを踏んだ。 「そうするとこの円筒の中に気化した油が放り込まれます」 コルベールは円筒の横に慎重に杖の先っちょを差し込み、断続的に発火させた。 「すると円筒の中では気化した油が爆発し、その力でピストンが上下に動きます」 あ、分かった。これエンジンだ。 「動力はクランクに伝わり車輪を回します。そうすると…」 コルベールは箱についている扉を見る。 「ヘビ君が顔を出してぴょこぴょこご挨拶するはずなんですが…」 机の上にはヘビ君の破片があった。 「まだヘビ君は修理していないんですよ」 本当にゴメンナサイ 「でもスゲーな、エンジンだよコレ」 「えんじん?」 「そう。おれの故郷ではこれをつかって車を動かしてるんだ」 おれはコルベールに車とか飛行機とか船とかの事を話した。 その最中におれが異世界の出身であることも話した。 実はこれ、ルイズにも言ってないんだけど別に隠してた訳じゃあないので問題ない。 「機械か…私にも作れるでしょうか?」 「うーん、難しいんじゃあないかな、あんたの系統は火だろ?」 「そうですか…」 コルベールの系統は火だ。何かを作るのに向いているのは土系統。 出来なくはないが難しいだろう。 そうだ! 「まず簡単な物を作るんだ」 「簡単な物?」 「そしてそれを売ってその金で土のメイジを雇うんだ」 「なるほど!」 「もしかしたら他にも同じ考えのヤツが見つかるかもしれない」 「仲間も増やすのですか!それは良い考えだ!」 その後すぐに何かのサンプルを作りたかったがコルベールは明日から用事があって学院を離れるのだそうだ。 仕方が無いので今日はここでお開きとなった。 サンプルの第一候補は今のところ『折り畳み傘』だ。アレは地味に役に立つからな。 鞄に入れておくだけで急に雨が降った時にも大丈夫!この英知の結晶は素晴らしい!一言にまとめると人間傘下! そしてこれは大収穫だ。 コルベールの協力があれば機械は無理にしても様々な道具が作れる。 作る国の方向性が見えてきた。『技術の優れた国』だ。 おれは意気揚々と部屋に帰ったが、部屋の前で思い出した事がある。 ルイズも怒ってたんだよなあ、すっかり忘れてた。どうしよ。 意を決してルイズの部屋に入る。 「あ、おかえりー」 あれ?何で怒ってないの? てっきり罵詈雑言の後に体を切られたけどズレたままで固定されたり 体を小さな板のように切り崩されてそれでドミノ倒しされたり 息を吐けなくされたり吸えなくされたりして最後にご飯抜きの刑が待ってると思ったのに。 まあ良いや、怒ってないならそれで良い。話題を逸らしてやり過ごそう。 「いや勘違い、で何やってるの?」 「見て分からない?」 ルイズは机で本を読んでいる。だがその本のページは真っ白だ。 つまりあれは本ではなくノートということだろうか。 そして机の上には筆記用具。 考えに考えた末におれは答えをだした。 「分かった。作詞だ」 多分バンドでも組むつもりなのだろう。 なるほど。これに集中しすぎて怒りを忘れたって訳か、やっぱバカだな。 「正解。作詩よ、でもよく分かったわね?」 「これでも使い魔ですから」 とりあえずへつらっておく。 「やっと使い魔としての自覚が出てきたみたいね。 んなワケねーだろ。 「これはね、姫様の結婚式で使うのよ」 お、頼んでも無いのに説明しだした。 これは話したくてしょうがないって事だから適当に聞いて適当に相槌を打っておこう。 「……(説明中)……という訳なのよ」 「へー」 「そういえば午後は見なかったけど何してたの?」 このタイミングでそれ?てっきり完全に忘れたと思ってたのに。 「あれ?そういえば何か午前中に大変な事があったような…」 思い出すな、頼むから思い出すな。 「何があったっけ?確か最初はコルベール先生の授業で……」 おれが悪かったような気がするから止めて! 「コルベール先生が変な装置を披露して……あ!」 NO!remember(思い出す)NO! 「イギー、さっきはよくも逃げてくれたわね」 にこやかに言うな!まだ怒鳴ってくれた方が怖くないから! ルイズが息を吸い始めた。怒鳴りだす準備だ。 「バカ犬~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」 おれは逃げ出した。謝れって?無理だよあんなの。 ちょっと走ったら少しドアが開いてる部屋があったので飛び込む。 そこにはギーシュとモンモランシーがいた。 「匿え!」 命令形の文で話し、ベッドの下に隠れる。 「何なんだね君は!」 「うるせー!静かにしてろ!」 ギーシュに怒鳴り返す。って怒鳴っちゃマズイだろ、おれ! 「この部屋にいるのね?」 悪夢が、悪夢がやってくる! 「人の部屋でブツブツ言わないでくれたまえ」 勢い良くルイズが入ってきた。 「ここにイギー来なかった!?」 「来たよ。ベッドの下」 バラすな! 「なるほど?ベッドの下とはまたセコイ所に隠れたわね?」 ベッドの下を馬鹿にするなよ。 ここには青少年の秘密が隠されているんだ。ここはモンモンの部屋だからそんな物無いけど。 「捕まえてこの世に生まれた事を後悔させてやるわ!」 うわ、完全に悪役の発言だよアレ。 「それはそうとこのワインもらうわよ」 「あ!それは…」 モンモンの静止も空しくルイズはワインを飲んでしまったらしい。 だがワインを飲んでいるという事はつまり上を向いているという事! おれはこの隙に部屋から逃げ出した。 再び廊下を走る。 でももう入れそうなドアは無い。 厨房とかおれが普段行く所はバレるだろうし、どうしよう。 走ってる内に前方に人影発見。キュルケだ。 おれはキュルケの後ろに隠れる。 「ちょっと、何よ?」 「すぐ分かる」 そう、すぐ分かる。 すぐにルイズが来てキュルケに噛み付くだろう。そしておれはその隙に逃げる。 完璧な作戦だ。 「キュルケ!?どきなさ…」 ルイズがやってきてキュルケを見つけた。が、様子がおかしい。 キュルケを見たまま動かないのだ。 そしてキュルケに跳びかかり、抱きついた。 抱きついた。 ルイズが、キュルケに、抱きついた。 「キュルケってやっぱりスゴイわね~。胸とか、胸とか、胸とか。もう大好き!」 胸しか褒めてねーじゃん。同感だけど。 ルイズはキュルケをどこかに運んでいく、すごい力だな。 キュルケも抵抗するのだがルイズが間接を押さえているのであまり意味が無い。 ここで逃げたほうが賢いのだが好奇心からおれも付いていく。もちろんすぐに逃げられる距離を保ちながらだが。 そのままルイズは自分の部屋にキュルケを持ち帰った。 あ、コレはヤバイ。R指定だ。 これ以上は色々ヤバイ事になるので別の寝床を探そう。 部屋から離れようと思ったらキュルケの部屋からフレイムが出てきておれに話しかけてきた。 「あの、マスターからすぐに助けるよう言われたんですが、なにがあったんですか?嫌な予感がするんですけど」 どうやらキュルケがフレイムに助けるように言ったらしい。 「行かない方が良いぞ」 「でもマスターの命令ですし…」 やはりフレイムも行きたくないらしい。 「おれに邪魔された事にすれば良いだろ」 「あ!そうですね!」 キュルケの部屋はこんな時間でも訪問者があるらしいので、フレイムと別の寝床を探すことにした。 「お兄様たちと一緒に寝れるなんて嬉しいのね!」 おれ達もお前が寝ている場所を貸してくれて嬉しいよ。 ありがとうな、シルフィード。 その日の夜。女子寮にR指定なR指定がR指定だったらしい。 To Be Continued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/200.html
使い魔は皇帝<エンペラー>-1 使い魔は皇帝<エンペラー>-2
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/788.html
「何がおっしゃりたいの」 なんだなんだ。何を知ってるんだ。何を知ってるとしても誤魔化せるとこまで誤魔化してやる。 「無いはずの物が見えたとか。あるはずの物が見えなかったとか。ほんのささいなことでもいいんです。何かおかしなことが起こりましたよね」 どこまで知っているんだろう。そもそもなんで知っている? 「特に何も。遠くの物がよく見えたくらいかしら」 「本当ですか?」 こいつの目……こいつの目は危険だ。色が濃くて深い。見通されてるような気がする。 これで何人も騙してきたんだな。まともに見返さない方がいい。 「どういう意味? わたしが嘘をつく理由があるとでも?」 「いいえ」 「ならもういいでしょう。疲れているから眠りたいんだけど」 「そうですか」 立てよ。席を立てよ。あんたはわたしの寝顔見てる気かよ。なんですました顔で座り続けてるんだよ。 「ミスタ・グラモン、わたし眠りたいんだけど」 「そうですか。ルイズさん、あの眼鏡なんですが」 こ、この野郎。 「あのね。わたしは眠りたいの。お話しできることは全部しました」 「そうでしょうか」 話したっつってんでしょうが! あんたは耳あんの? わたしの話聞いてんの? 「わたしは一人で眠りたいの。出て行ってもらえない?」 「はい。分かりました」 素直だ。素直すぎる。かえって怖い。この男がつかめない。 入ってきた時と同じ、考えてるんだかいないんだか分からない顔で出ていった。 さて……どうしよう。どうしようったってどうしようもないんだけど。 グラモンの阿呆が何を知っているのか。何で知っているのか。 気になるけど聞けばボロが出るだろうしなぁ。これいらつくわ。どうしてみようもないもの。 足りない頭で考えても仕方の無いことを考え始めて十五分と少々。 なんだか眠くなってきたところで再び扉がノックされた。今度こそコルベール先生? 「どうぞ」 「ハイ、ルイズ。眼鏡は見つかった?」 チェンジ。 「うん? 何か言った?」 「いいえ、何も。眼鏡が見つかってないのはあんただって知ってるでしょ。何か用なのキュルケ?」 そしてわたしの許可無く椅子に腰掛けるキュルケ。 お母様、トリステイン魔法学院には礼儀知らずしかいないようです。 「ほら、あなたって儀式の最中ずっと探しものしてたでしょ。他の人が何を召喚したのか気になってるんじゃないかと思って」 うわ……きたよ。親切ぶってるけど何がしたいのかは丸分かりだよ。 「皆滞りなく儀式を終えたわ。一部の例外さんもいたみたいだけど」 さりげなく嫌味を入れるところとかツボついてるよね。郷に帰れ。 「モンモランシーは大きな蛙、マリコルヌは小さな蛙、タバサはね、すごいのよ。なんとドラゴン呼んじゃったのあの子。やる時はきっちりやるタイプだと思ってたけど、まさかドラゴン召喚しちゃうとはねえ」 蛙率高っ! ああ、やだやだ。蛙とか本当かんべん。ぬめぬめしてるわ目ェ大きいわ……ひいい。 「蛙多くない?」 「そうね。ま、こんなこともあるでしょ」 「モンモランシーはまだ分かるけど、マリコルヌとか風のドットでしょ。なんで蛙なのよ」 「さあ? 空飛ぶ蛙なんじゃないの」 うううわあああああ! か、蛙! 蛙が飛ぶってあんた! うわ、うわうわああああ! 鳥肌が! 「で、あたしなんだけど」 おっとこれがメインか。やっぱり自慢話するために来たんだな。 「ちょおっとレアなやつを召喚しちゃったのよね」 もんのすんごく聞きたくないな。だいたいにして空気読めてないのよね、このおっぱい魔人。 「なんとね、力そのものを」 よおしいくぞぉ。おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい…… 「召喚しちゃったのよね。これって前例がないんだって」 おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい…… 「ほら、ちょっと見ててよこのコップ」 おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい…… 「スゴイでしょ、ルーン無し、精神力の消耗無し、回数制限無し、タイムラグ無し。一瞬で水が熱湯に変わるのよ」 はああああ、おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい…… 「この力……使い魔を鍛え上げて、いずれは鉄を溶かしたり石を溶かしたり。ねえ、すごいでしょ?」 おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい…… 「ねえってば、聞いてるの?」 おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい…… 「ちょっとルイズ?」 おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい……そろそろ終わったかな? 「ルイズ、どうしたの?」 「いえ、べつに。ちょっと驚いてただけよ」 「ふふん、眼鏡を召喚したあなたには刺激が強すぎる話だったかもね」 せいぜい得意がってなさい。わたしは自慢話につきあうほどお人よしじゃないの。 あんたの使い魔トークなんか全部おっぱいで打ち消してやったんだから。 何一つ頭の中に入っていないもんね。ほーほっほっほっほ。 「あ、そうだ。ねえ、グラモンはどうだったの?」 「グラモンってどっちのグラモンよ?」 「どっちって……」 どっちだったっけ? まぁどっちでもいいや。両方聞いておく方が怪しまれないだろうし。 「どっちもよ、どっちも。兄貴と弟両方」 「弟のキーシュは二十日鼠、兄貴のギーシュは……そういえば見てないわ。モグラでも召喚して地面に潜ませてるんじゃない?」 二十日鼠か……普通だな。普通なところが逆に怪しい。ううむ。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2391.html
17話 「悪いわね、タバサ。部屋貸してもらっちゃってさ」 「気にしてない」 「でもキュルケは来る必要ないじゃない。 あんたの部屋はまだ大丈夫だし」 「でもドアがないし、壁に穴だって開いてるわ。 とてもレディーの住める場所じゃないわよ」 「わたしのとこはドアもなければ壁に穴も開いてるし、 おまけに部屋の中は全部真っ黒焦げよ。 あ~あ……誰のせいかしらね」 「それをいうなら、あたしの部屋のドアはどこの誰にぶっ飛ばされたのかしら?」 途端に両者の間に流れる空気が剣呑なものになる。 すかさずタバサは杖を振って、「サイレント」の呪文を唱えた。 タバサの部屋に二人が来たのは、昼ごろだ。 ルイズとキュルケが賊と戦ったという話はタバサも聞いていたので、 「いる部屋がないから、中に入れてほしい」と言われて断る理由は無かった。 だが部屋の主人はあくまで自分である。 激しい罵り合いをそのままにしておいては自分も本を読んでいられなくなるので、 魔法で強引に静かにさせた。 タバサがサイレントを唱えた後も、二人は罵り合いを続け、 両者が杖を抜いたところでとうとうホワイトスネイクが止めに入った。 部屋の椅子に腰かけてラングラーの記憶のDISCの中身を見ていた彼も、 当初は好きなようにさせるつもりでいた。 だが魔法を使っての戦いになったのではさすがに好きにさせるわけにもいかない。 ルイズでは100%確実に負けるし、それにTPOから言ってもタバサに多大な迷惑がかかる。 前に出会い頭にツララを何発か撃ち込まれて以来、ホワイトスネイクはタバサを警戒していし、 もっと言うならばあまり関わりたくないと思っていた相手だったが、 一応の、そしてとりあえずの、さらに成り行き上やむを得ずに従ってやっている主人が世話になっている以上、 やりたいようにさせるわけにもいかないからだ。 ふと、タバサは横目でキュルケが自分に何か言っているのを見た。 もう言いあいも終わっているようだったので、タバサはサイレントを解除する。 「タバサ、今日の舞踏会はどうするの?」 やっぱり解除しない方が良かった、とタバサは少し後悔した。 「あんた、確か昨日もそんなこと言ってたわね」 「当然よ! ああ、今年は何人の男の子と仲良くなれるのかしら。 今から楽しみでしかたないわ!」 キュルケはキラキラしたオーラを振りまきながら雄弁に語る。 彼女の美貌なら、きっと1ダースほどの男の子を集められるだろう。 「ええ、そうでしょうね」 「同感」 ルイズとタバサは棒読みで同意する。 「あなたたちはどうするの?」 キュルケがキラキラオーラを二人に向ける。 「食べる」 そう答えたのはタバサだ。 「た、食べるって……男の子を!? ああタバサ、あなた随分積極的になったのね……」 「違う。食べ物の方。 私は人食いじゃない」 タバサは呆れ半分で否定する。 「あっはっはっは! タバサったら、本当は何の事だか分かってるんじゃないの?」 キュルケはげらげら笑いながらタバサの肩を叩く。 キュルケが言った「男の子を食べる」とは、性的な意味で男の子を襲ってしまうことだからだ。 当然タバサがそっちを考える筈はない。 キュルケもそれを知った上で言っているのだ。 タチの悪いことである。 「ところで、ルイズは?」 話の矛先がルイズに向く。 「わたし?」 「そうよ。あなたはどうするつもりなの?」 ルイズは少し考えて、 「……行かないかも」 そう答えた。 「な、何ですっ「何ダト?」」 キュルケが驚きの声を上げ―― 「……今の声」 3人が同時に一方向を見る。 その先にいたのは、 「ルイズハ舞踏会ニハ行カナイノカ?」 ホワイトスネイクである。 舞踏会の話題になってから、ずっと椅子に座ってDISCを見ていたようだ。 おまけに足まで組んで、大変リラックスしていたところらしい。 「……何であんたがその心配を「あらダーリン! あなたも舞踏会に行きたかったの?」」 訝しげなルイズの声を遮って、キュルケの甲高い声がホワイトスネイクにかかる。 「ソウダ。舞踏会トイウカラニハ、必ズソノ土地ノ文化ガ現レルンダロウ? 音楽トカ、美術トカ、舞踏トカ……私ハソレヲ見タイノダ」 「あたしと踊るのはどう?」 「生憎トダンスハ心得テイナクテナ」 「あら、大丈夫よ。 あたしが手取り足取り教えてあげるから」 そう言ってウインクするキュルケ。 「考エテオコウ」 ホワイトスネイクはそれだけ言った。 「ちょ、ちょっとホワイトスネイク! そこは断る所でしょ!」 面白くないのはルイズである。 自分が行かないと言っているのに使い魔は行きたいというし、 おまけにライバルの女の子と踊る約束までしかけているのだ。 「ソレグライハ私ノ好キニサセテモライタイモノダガ」 「ダメよ、絶対ダメ! っていうかあんた、私の半径20メイルから離れられないんじゃないの? わたしが行かないなら、あんたも行けないことになるじゃない!」 「ソコハ私ナリニ解決策ガアッタノダ」 「どっちにしてもダメよ! ダメって言ったら、ダメなんだから!」 完全に癇癪を起しているルイズ。 ホワイトスネイクは少し考えて、 「何デ行キタガラナインダ?」 「別に、大した理由があるわけじゃないんだけど……」 「大シタ理由ジャナクテイイカラ、言ッテミロ」 「……やっぱり言いたくない」 駄々っ子ルイズに、流石のホワイトスネイクもため息をついた。 「聞き方が気に入らないのよ! あんた、いっつも上から目線だし、今だって『聞いてやるよ』って感じだったじゃない!」 「…………」 (ツマリ、言イタクナイッテ事ダナ) もはや言うべきことは何も無かった。 キュルケはやれやれ、といった表情でルイズを見ているし、 タバサに至ってはまたサイレントの魔法を使いそうだ。 もうこの場にいることはないだろう。 「ルイズ、先程『アレ』ヲ見オワッタ。 今カラヤツニ返シニ行クカラ、一緒ニ来テクレ」 「あれって……ああ、あれね」 DISCの中身が記憶であることは、ルイズとホワイトスネイク、それとオスマンの間だけでの秘密である。 他人の記憶を自在に覗けるってことは、あまり人に知られたいことではないからだ。 「じゃあ、わたしは用があるから行くわ」 「そう、じゃあね」 「また今晩」 そう言ってルイズは部屋から出て、二人はその小さな背中を見送った。 ホワイトスネイクは何も言わずにその背中に続く。 「……それで、あんたは記憶を見て、何か見つけたの?」 「アア、大変ナ収穫ダッタ」 「何があったの?」 見上げるルイズの眼を見下ろし、ホワイトスネイクは、 「敵ノ首謀者ノ情報ダ」 自信ありげに、そう答えた。 「首謀者の情報?」 「ソウダ。ラングラーハ自分カラアンナ危険ヲ侵スヨウナ男デハナイ。 確実ナ利益、確実ナ報酬ガ引キ換エニデモナッテイナケレバ、マズ動カナイヤツダ」 「ってことは……雇い主がいる、ってこと?」 「ソノ通リダ。中々頭ガ回ルヨウニナッテキタナ、ルイズ」 「いちいち褒めないでいいわよ。なんか腹立つから」 「ソレハ残念ダ」 「それで……分かったのは、その雇い主の情報なの?」 「ソウダ。ダガソイツモマタ、誰カニ雇ワレテイルラシクテナ……」 「そ、そこまで分かっちゃったの!?」 「推測ノ領域ヲ出テイナイガナ。ルイズモ見ルカ?」 「見るって、記憶を? い、いいわよ、わたしはそんなの!」 「ダガルイズヲ襲ッタ連中ノ情報ダ。 自分ノ事ナノダカラ、ソレグライハ自分デ知ロウトスルベキダト思ウガナ」 ホワイトスネイクの言うことには一理あった。 確かにそう言われると、知っておきたくなる。 「そうね。じゃあわたしも見てみようかしら」 「イイ心ガケダ。デハ……少シ待テ。再生ヲ開始スル場所ヲ探ス」 そう言ってホワイトスネイクはDISCを額に挿す。 「ココカラ再生開始ダ」 少ししてから、ホワイトスネイクがDISCを頭から引き抜いた。 「貸しなさい」 ホワイトスネイクが差し出したDISCを、ルイズはあえて乱暴な態度で取った。 さっきはちょっと怖がらされちゃったけど、 これからは誰が主人で誰が使い魔なのか、きっちり教育してやるのだ。 こいつにはまだ勝ってないし、だからこそ勝ちたい。 でもその前に、最低限のことだけは叩きこんでおかねばならない。 それが上下関係であり、どっちが上でどっちが下かって話だ。 アイツは「半年間は使い魔でいてやる」と自分から言った。 なのにアイツはわたしの言うことをちっとも聞かないし、 おまけにわたしに指図までする始末! 使い魔はご主人さまより下だし、ご主人様は使い魔の上に立つ。 そんな基本の基本の基本さえ、アイツは分かっちゃいないのだ だから、教育する。 これはその第一歩。 由緒正しきヴァリエール家の三女として、あのナマイキなホワイトスネイクに、キッチリと教えてやるのだ。 首を垂れるのはどっちなのか、ってことを! そう張り切って、いざDISCを頭に差し込み―― 『空気はおまえをあたしの方に吹き戻してくれてるぞォォォォッ!! オラオラオラオラオラオラオラオラオラ オラオラオラオラオラオラオラオラオラ オラオラオラオラオラオラオラオラァーーーーーーッ!!!!』 そのまま、ブッ倒れた。 使い魔教育は第一歩から踏み外し、頭から落っこちるハメになった。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/985.html
味も見ておく使い魔-幕間 本来、天井があるべきところに満点の星空が輝いている。 こんなことをしでかした張本人は泣きつかれたのか、 すでに自分のベッドの中で寝息を立てている。 ブチャラティはルイズに布団をかけてやりながら、一緒に召喚された男をみた。 月明かりの元、何かを一心に描いている。 「何をしているんだ?」 「僕は漫画家なんでね。今原稿を描いている」 「元の世界に返れないかもしれないのに?」 そういえばナランチャがジャポーネ・マンガを集めていたな。 たしか、『ピンクダークの少年』だったか? 「僕は人に自分のマンガを読んで楽しんでもらうことが僕の生きがいであり、 人生の目標でもある。 だから、ここでも、あちらでも読んでくれるひとがいる限りまったく問題ない。 むしろ絶好の取材のネタをつかんだことがうれしいね」 「そうか…」 「オレはブローノ・ブチャラティ。ブチャラティと呼んでくれ」 「僕は岸辺露伴。露伴と呼んでくれてかまわないよ」 「ところで、君はここに呼び出されたときのことを覚えているか?」 「ああ、ぼくはあの時ヴェネツィアからサルディニア島に向かう飛行機の中にいた。 『アドリア海の胃袋』といわれている海域を取材しにね… そして、ローマの上空あたりだったかな? 僕がファーストクラスに座ってリラックスしていたとき、人の形をした幽霊みたいなものが座っていた座席の下から浮かび上がってきたんだ。 そこで驚いていたら、突然目の前に『光る鏡のようなもの』が現れて、 僕とその『幽霊のようなもの』は飛行機の飛ぶ速度でそれに突っ込んだんだ」 「なるほど… 俺はある事件を起こし、その途中ローマのコロッセオで死んだ。その後気がついたらすでに召還されていたってわけだ」 「そうか。ところで、ぶしつけだがその『事件』について話をしてくれないか?」 「いずれな… ともあれこれからしばらく…どうなるかわからないがよろしく」 「こちらこそよろしく頼む」 ブチャラティはルイズを見ながら考える。 オレはオレ自身の命令でトリッシュを守ると誓った。 だが結果として、ボスとの決着をつける前に力尽きてしまった。 そして今、トリッシュと同じ髪の色をした少女に『使い魔』として召喚されている。 これは偶然なのだろうか?それとも何かの『運命』なのだろうか? 今はまだ何もわからないが、しばらくはこの『小さなトリッシュ』の相手をしてやるか… あの男… やはり僕の『原稿』を見ても何も変化は起こらなかった… ルイズを読んだとき、「ひょっとしたら」とおもっていたが… メイジと契約をした使い魔はメイジの『所有物』になる… 僕の『ヘブンズ・ドアー』は知能のある動物なら『本』にすることができるが… 自分の『遠い記憶』、未来の『運命』と……『物体』は読めない… 戻る 味も見ておく使い魔-1に戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/146.html
わたしは今、馬車に乗っている。ミス・ロビンクルが御者を務め、キュルケと タバサ、プロシュートの四人で荷台に乗っている。 「フーケってのは何者なんだ?」 プロシュートは知らないらしい、今から捕まえにいく『土くれのフーケ』の説明をする。 「通称、土くれのフーケ。マジックアイテムが好きな盗賊よ。フーケは深夜に こっそり忍び込んだり、白昼堂々ゴーレムと現れたり。神出鬼没、男か女かも 分からない。ただ、盗んだ後にフーケのサインがしてあるだけ」 「名前から察するに土系統のメイジか?」 「そうね、少なくともトライアングルクラスのメイジね」 「これは、罠の気がする」 プロシュートが聞き捨てならないことを言い出した 「気?気がするですって、何で?」 「俺の勘だ」 「勘ですって?」 馬鹿馬鹿しい、わたしは何を期待したというんだろ 「悪くないんじゃないの、女の勘とか言うし」 キュルケ、こいつは男よ 「勘、馬鹿には出来ない」 タバサも同意らしい、滅多に開かない口を利いた 「今まで、捕まらなかったフーケの情報が何で今回入手できたんだ? それは、目撃されたのでは無く、ワザと見つかったと考えるべきだ」 「ダーリン、冴えてる」 プロシュートの仮説にキュルケが目を輝かせ、タバサがコクコク頷いている 「確認しとくぜルイズ、フーケは生け捕りにして破壊の杖をゲットすりゃいいんだな」 一々物騒なのよね、この使い魔は 「ミス・ロングビル、後どれくらいで着くんだ?」 「もっ、もうすぐですわ」 プロシュートに声を掛けられたミス・ロビンクルはうっすらと汗を掻いていた 「どうした、暑いのか?」 「ええ、なんだかこの辺りは蒸しますし」 ミス・ロングビル・・・なんだか怖がっているように見えるのは気のせいだろうか?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2249.html
プロシュートに掴まる。それは、わたしの敗北を意味する。 わたしは覚悟を決め杖を振る。 「ファイアーボール」 爆発が起こるがプロシュートは避けながら、こちらに向かって来る。 「ファイアーボール」 また避けられた!狙い通りに爆発してるのに。 「どうして当たらないのよ?」 「どこが爆発するか分からない。だが、その場所さえわかってしまえば 避けるのは、そう難しい事じゃねえ」 「わかるのッ!」 「お前の魔法は杖と視線の交差する場所が爆発するんだッ!」 「ファイアーボール」 プロシュートが爆発を避けながら、こちらに向かってくる。 言われてみれば爆発は杖と視線の先。 プロシュート、ただ単に強い能力を使うだけじゃない。 わたし自身気がつかなかった特性を冷静に分析している! わたしはギーシュの様にゴーレムを作れない。 わたしはキュルケの様に火を打ち出す事ができない。 わたしはタバサの様に風を起こす事ができない。 何を唱えても爆発しか起こらない。 どうする?その爆発がよけられたら打つ手が無い! 気がつけば目の前にグレイトフル・デッドが! しまった考え込んでいた隙に。掴まる! 「エア・ハンマー」 タバサのエア・ハンマーがプロシュートとグレイト・フルデッド共々叩き付けた。 「こっちへ」 タバサは、わたしの手を取りモンモランシーの部屋に行こうとする。 「悪いけどそっちには行けない。わたしは自分の部屋に行かなきゃいけない」 「知ってる。シルフィードで空から行く」 その手があったわね。わたしは頷くとタバサの後に続く。 他の皆も部屋に入るがギーシュは、その場に残りゴーレム達を作り出した。 「何してんの、早く来なさい」 「僕はここで足止めをする!ルイズ、君には『対策』を調べる時間が必要だ」 「偏在すら見えないあんたが足止めなんて出来るわけ無いじゃない」 「わかるとしたら」 ギーシュはグレイトフル・デッドを指差した。 「あそこにいるのだろう」 「見えているの?」 「いや見えない。だけど僕が錬金した油が浮いているからもしやと思ったんだ」 スタンドは見えないけど油は見えるって訳ね。 「ギーシュ、あんた確実に死ぬわよ・・・恐くないの?」 「そりゃ恐いさ。だがもっと恐ろしい事は・・・ ここにいる女の子達が全員老いて死んでしまう事だッ!」 一体のワルキューレがわたしを抱え上げた。 「ちょ、ギーシュッ!」 「言い争ってる暇は無い。ラ・ロシェールの時と一緒だ!」 あの時は、わたしの意志なんか関係無かった。状況に流されていただけだ! また、このまま流されるの・・・でも時間が・・・ 「絶対死なないでよギーシュ」 それだけ言うのがやっとだった。 「薔薇はまだ全ての女性を楽しませてはいない・・・ だから、まだこんなところで枯れ果てる訳にはいかないッ!」 ワルキューレは、わたしをモンモランシーの部屋に押し込めドアを閉めた。 「さあ行けッ!うおおおおりゃああああぁあああ」 ドカ バキ ドグシャーッ 「ちょっとルイズ早くしなさいよー」 既にシルフィードに乗ったキュルケが急かしてくる。 「今行くわよ」 タバサの風に包まれるとシルフィードの背中に移された。 「きゅいぃ」 なんだか鳴き声に元気が無い、シルフィードも年を取ってるのね。 「飛んで、割れた窓」 ああ、キュルケのファイアーボールが窓を突き抜けていたっけ。 シルフィードが旋回しながら上昇していくと、すぐに割れた窓が見つかった。 乗った時と同じ様に風に包まれ部屋の中に移動した。 部屋の中は酷い有様だった。 タバサのウィンディ・アイシクルで壁や家具は穴だらけで水浸しだった。 床に残っていた氷を手に取り握り締め少しでも老化の進行を抑える。 それを見たキュルケとモンモランシーも慌てて氷を掻き集めだした。 始祖の祈祷書と水のルビーは確か机の引き出しに・・・あった! 「デルフリンガー。これから、どうすればいいのよ?」 「まず指輪を嵌めな」 指輪を嵌めた瞬間、水のルビーと始祖の祈祷書が光りだした。 「祈祷書を開いてみな。きっと読めるはずだ」 言われなくても既にページを捲っていた。 こんな時だというのに好奇心が抑えられない。 古代のルーン文字で書かれていたが読める・・・ わたしには、これを読むことができるッ! 「ねえルイズ、私には何も書いて無いように見えるけど本当に読めてるの?」 キュルケが祈祷所を覗き込みながら話し掛けてくる。 「ええ読めるわ」 「その水のルビーを嵌めると読めるのかしら」 「いや、それじゃ読めねえ」 キュルケの呟きをデルフリンガーは否定する。 「担い手が水のルビーを嵌めないと読めないんだよ」 「何よそれ、条件厳し過ぎない?」 デルフリンガーとキュルケの言合いも気にせずにページを捲っていく。 「真っ白になったわよ」 「気にせずページを捲りな、必要な呪文が読める様になってんだよ」 いわれるままページを進めると光り輝くページを見つけ手をとめる。 ディスペル・マジック(解除) わたしは祈祷書を閉じ顔をあげた。 「それでルイズ、何が書いてあったの?」 モンモランシーが神妙な顔つきで尋ねてきた。 「プロシュートを止める魔法よ」 一刻も早くプロシュートを止めなくちゃいけない。学院の皆が老化で死ぬ前に。 わたしは、意を決しドアを開けると廊下に一人の老人が倒れていた。 ローブを被っており老化が進み過ぎているので誰かわからない。 こちらに気が付いたのか顔を上げる。 「ううう・・・君達、早く非難しなさい・・・ 私達は先住魔法の攻撃を受けている・・・」 男の先生・・・?こんな場所に・・・ わたしの疑問を余所にモンモランシーは男の傍に駆寄った。 「もう大丈夫です。すぐに助けますから」 モンモランシーが氷をくっつけようとした時、その手を男に掴まれた。 「いいや・・・助からないさ!ただしお前がだ・・・モンモランシー」 「え?」 その台詞は!! 「モンモランシーそいつから離れて!早くッ!!」 「グレイトフル・デッド!」 ズギュウウゥゥゥン 「ぎゃあああああぁ」 「『直』は素早いんだぜ、パワー全開だ~」 言っておくべきだった・・・ 未確認の情報、自分自身も老化することが出来る事を。 「離れなさい。ファイアーボール」 「ちっ」 プロシュートはモンモランシーから手を放し爆発から距離をとる。 「プロシュート・・・ギーシュはどうしたのよ?」 「さあな・・・あの高さだ、無事じゃねーだろ」 曖昧な言い回し・・・直接手を下した訳じゃなさそうね。 「プロシュート。クロムウェルの支配から開放してあげるわ」 杖を構え解除の呪文を頭に思い浮かべる。 「クロムウェルの支配か・・・ 魔法に疎いオレに教えてくれないか。人を呼び出し強制的に使い魔にする事と 死人を生き返らせ操るのは一体なにがどう違うんだ?」 え? 「な、何を言っているの?だって自分は使い魔だって言ってたじゃない」 違う。こんな事が言いたいんじゃ無い。考えが上手く纏らない。 「オレが好き好んで使い魔をやっていたと思うか? お前のダメージがオレのダメージになるから守ってただけだ 何を勘違いしてたのやら。御目出度いガキだなオメーはよォ」 わたしは何をやってたというの?わたしは何処に立ってるの? わたしは何処に向かっているの?わたしは何処に向かえばいいの? わたしは わた わた わ 「掴んだ」 あっ、グレイトフル・デッド。 「エア・ハぐふッ」 「同じ手は食わねえ」 「タバサッ!」 「グレイトフル・デッド」 ズギュウウゥゥゥン わたしの体が、頭が、心が危険を訴えてくるが・・・杖を振るどころか 指一本・・・動かすことが出来なかっ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1913.html
「うわー、浮いた!」 「浮いてるんじゃないんだ、スタンドが手にとって持ち上げてるだけで」 「詠唱無しで浮かせられるのかい?なんでも?!」 「話を聞け!無視するな!」 『何も物が動かない』世界そのものよりも、ただ『物が動く』だけに酷く興味を示すギーシュ。 否、ただ動かすだけなら彼にだって出来るのだろう、ただその物体が どの方向へ、何のためにだとか言う秩序を持たずふわりと浮き上がったのが面白いらしい。 オレはマン・イン・ザ・ミラーに『そこの造花を手に取れ』と命じただけで、 それをその後どうしろだとかは特に注文をつけていなかった。 マン・イン・ザ・ミラーは造花を手に取り注意深く覗き込んだ後、それに向かって手を伸ばしたギーシュから ひょいと造花を遠ざけて、暫く手を止めた後に俺の傍らに置いた。 「その『スタンド』っていうのは、魔法が意思を持ったようなものかい?」 「さあ?意思があるかは良くわからない。見るからに自由意志を持ってべらべら喋る奴もいるし、 本体の意思をそのまま口に出しているだけの奴もいる。分身みたいに動くんだ。 逆に意思なんて持ちようも無い形をしてるのもある。本体の言う事を聞くのだけは確かかと思ったら、そうで無い奴もいる。」 「結局何なんだい?」 「さあ。オレが知りたいくらいだ。」 ギーシュはマン・イン・ザ・ミラーを目で追う。と言っても、『ここに居るんじゃあないか』と推測して見ているだけだから どうもずれた場所を凝視していて、『マン・イン・ザ・ミラー』の方からギーシュの視線にあわせて動いた。 「使い魔と魔法をごったにしたみたいだ」 「『使い魔』ね・・・・そんな感じもするな。それで」 魔法の方は見せてくれないのか?というと、杖を手に取らなければ無理だと返ってきた。 なんと面倒くさい。鏡が無けりゃ何も出来ないと少し自信喪失していたが、それも吹っ飛ぶようだった。 そんな明確すぎる弱点をぶら下げてメイジって奴らは何故平気な顔をしているんだ? 『マン・イン・ザ・ミラー』のがずっとマシだ。鏡が無くてもぶん殴れるからな。 「じゃあ、ちょっと『マン・イン・ザ・ミラー』、洗面所までもってって・・・・よし、『許可』しろ。これでどうだ?」 ふわふわと鏡の前から返ってきた造花は、なんとなく冷え切っていた先ほどとは違って 造花なりに生き生きと色を取り戻していた。 「おお、触れるようになってる。」 「外のそいつを鏡の中に持ってきたんだ。そいつは『本物』だ。」 「さっきのは?」 「『鏡に映った造花』だから、外側だけだな。見た目以上の意味はもって無いから、電化製品なんかは許可しないと動かない」 「デンカ・・・・?何?」 「気にするな、ほら」 何かやって見せろよ、と言うとギーシュは『錬金』を唱えて衣服のボタンを別の金属に変えた。 モンモランシーは、自分の頭がおかしくなったのかと思った。 無用心に開け放されたギーシュの部屋を覗いたところ、人っ子一人いないと言うのに 部屋中に転がるギーシュの私物が出たり消えたり浮いたり落ちたり、ポルターガイストだってもう少し大人しいだろうと言う お祭り騒ぎが現在進行中なのだ。 (『鏡の中』で男二人が自分の特技を見せ合って、ギーシュが『青銅製の鏡』を作り出した辺りで オレ達が組んだら結構強いんじゃあないか?とテンションを上げているのをモンモランシーは知らない。) 「どうしたの?モンモランシー。中へ入らないの?」 「ルイズ・・・・」 イルーゾォ捜索は、まだ続いていた。『犯人は現場に帰ってくる』という根拠の無い定説に基づき、 何故かモンモランシーを筆頭に少女四人はギーシュの部屋を訪れる。 タバサは『勝手に帰ってくる』と結論付けたものの、モンモランシーの方では自分の恋人を半殺しにした薄気味悪い使い魔を信用できなかったし、 ルイズだって「そう、じゃあ勝手に帰ってくるまで待つか」という訳にもいかなかった。 使い魔を自分の思い通りに出来ないんじゃあ当面『ゼロ』は払拭できそうに無いし、 それに、一人の人間として、きちんとイルーゾォの事を判りたい。そう思ったのだ。 「あたしもね、ダーリンと一対一で語らい合いたいわ。まだお互いの事を知らなさ過ぎるもの・・・・」 何故こうも意味合いが違って聞こえるのか知らないが、要するにキュルケもまた、待つだけなんか性に合わないのだ。 「放っておけばいいのに」 タバサだけが、少しイルーゾォに同情する調子で呟いた。 「ルイズ・・・・貴方も?その、部屋が変になってる。私だけじゃない?」 「・・・・・・・・っ!」 ルイズは、自分の頭がおか(ry 「な、何これ?!何が起こってるの?」 「『消失』・・・・」 タバサが、やはりそうかと言うように呟く。 「イルーゾォ、居る。ギーシュも・・・・ずっと居た。」 ルイズは思考を巡らす。 そもそも、イルーゾォが忽然と『消え』、再び『現れる』事は誰しもが知っていた。 目にとまるのはその『消え』『現れる』一瞬の事象ばかりで、『消えている』間一体何処に居るのだろうとか、そんな事は考えもしなかった・・・・ 「透明になってるだけ、って事?」 「違う。透明になるだけなら、現れる必要は無い。ずっと透明で居るだけで安全・・・・」 タバサは言い終わらないうちに、手に持っていた本を思い切り投げた。 「何?!」 デスクから人一人分の余裕を持って引かれた椅子の上、『人が座っていて不思議じゃない』その場所をめがけ本は飛んで行き、 そして『叩き落とされた』。 「どんな仕組みかは、彼に聞けばいい。ルイズ、頑張って。」 タバサに背中を押される。ううん、やっぱり良くわからないけれど。私に何か出来る事があるの・・・・? 部屋に一歩足を踏み入れ、良くわからないうちに杖をぎゅっと握る。 何も無いはずの空間がぴりりと、私を警戒した。 「うわっ、何あれ?」 ギーシュが驚いたようにドアを指差す。 音も無く開いたドアから勢い良く分厚い本が飛んできた。 咄嗟に『マン・イン・ザ・ミラー』が叩き落とすが、軽率だったかもしれない。 堰を切ったように部屋中の小物が渦を巻いて暴れだし(まだ日中だぞ。ポルターガイストだってもうちょっと大人しいだろう) 『マン・イン・ザ・ミラー』はオレにぶつかりそうになる幾つかを忙しく叩き落とす。 「おいギーシュ!こりゃ何だ?さっきの『レビテーション』か?」 「いや、タバサの杖がある、多分風の魔法だと思う!部屋の中で風が起きてるんだ!!」 部屋に4本の杖が浮いている。一つは目に見えてメガネ女のものだとわかるが、残りは区別がつかない。 花瓶だの万年筆だのの直撃を食らって悲鳴を上げるギーシュを尻目に、 先ほど奴が作り出した鏡を『マン・イン・ザ・ミラー』が持って駆ける。 『外』では空中を落下する鏡に映る、一つだけ明らかにデカい杖に『マン・イン・ザ・ミラー』が手を伸ばす―――― 「『マン・イン・ザ・ミラー』、杖を『許可』しろ!杖だけだ!」 やはりと言うか杖さえ取り上げれば異変は収まり、 しかしそれは『先ほどの旋風はオレにとって危険だった』と教えてしまったことにもなる。 それだけじゃない―――― 空中で少女四人を睨み付けていた鏡が、破片も残さず弾け飛んだ。 ほら見たことか、嫌な予感がした!『ゼロ』の爆発はオレにとって危険なものだ! 多少砕けるならばむしろ有利なぐらいだが、『無くなってしまう』なら訳が違う。 鏡が無ければオレは無力だ!そして何より、たった今証明された・・・・『マン・イン・ザ・ミラー』と『爆発』、俊敏性と射程が段違いだッ! このままじゃあ・・・・・・・・! 「ギーシュ!洗面台行――――」 瞬間、世界が裏返るような浮遊感と共に背景が瞬き、「やっぱり『鏡』に関係しているようね!」と勝ち誇った声が振ってくる。 ルイズだ――――やはり気づかれていた――――存外に恐ろしいぞ、『爆発』ってモノは。 この短時間に、『マン・イン・ザ・ミラー』の射程内の鏡を、片っ端から吹っ飛ばしたって言うのか? (正確には、何も『爆発』で鏡を消失させずとも、初歩の錬金で一時的に鏡に成り得ない物質に変えればいいだけなのだ。 ギーシュの部屋以外には迷惑がかかるだろうと、キュルケ・タバサ両名が錬金をかけた。) 『鏡の世界』は勿論鏡が無ければ維持できず、射程内に鏡が無くなったせいで反転世界は霧散し放り出された先は『現実』だ。 こんな事態は初めてで、ぐにゃりと歪んだ空間を見たときは胃が裏返るかと思った。 「もう逃げようなんて考えない事ね!」 ルイズに杖を突きつけられて――――向けんな、頼むから。爆発したくない――――観念する他無いようだ。 絶対安全で最良のスタンド『マン・イン・ザ・ミラー』・・・・『魔法』なんてものの存在で、オレの取り戻しかけてた自信は見事粉砕されるハメになる。 ①現実と鏡の世界で物体は同じように動く ②鏡の世界で物体を動かせるのはマンミラのみ ③引き込むにはマンミラが触れる必要あり ④衣服は身につけている者が『自分の体の一部』と思える範疇まで。 ポケットの中身はおk、本やカバンは駄目。襟元でイガイガして気になる洋服のタグとかも駄目。 他に魔法については原作のパープルヘイズの時のイメージで 鏡の外で発生する『事にしてある』。注釈が多くてゴメン。